「トレース」という単語には、複数個の意味があります。
「原図の上に薄紙を置いて書き写すこと」
「人や動物の後をたどること」
「踏み跡」
「生産等の履歴や製造過程の情報を調べること」
「プログラムの過程を追跡し問題を見つけること」
以上のように多くの意味がありますが、共通していることとして、「写す」「なぞる」「追跡する」の意味に分類できます。建築業界での「トレース」は、「原図の上に薄紙を置いて書き写すこと」を指します。
なぜ、「トレース」作業が必要であるかというと、主に2つの意味があります。
1つ目は、ドラフターにて手書きの図面が主流であった時代、設計者が作成した元図や下書き等をJIS規格に沿った図面に清書するために「トレース」作業が行われていました。
2つ目は、「トレース」をすることで図面についての知識やデザインを学習するという意図がありました。建築の知識を学ぶには座学による勉強だけでは習得することの限界があります。図面を「トレース」することで学べることがたくさんあります。たとえば、部材の寸法やデザイン性、配管を通すためにはどのくらいの余裕が必要なのか等実際に建築する建物だからこそリアルな学習が可能となるのです。
CADがなかった時代では、若い建築士たちは、先輩や上司の図面を何枚も「トレース」していたと言います。トレース」することにより技をコピーする。この手法によりデザインを学んでいたといわれるほどです。「トレース」とは単に真似をする写し取るという単純な作業ではなく写し取ることにより技術を上達させることができるのです。まず、設計をしたことがない、設計初心者の方や学生の皆さんには有名な建築物や好きな建物の「トレース」をすることをおススメします。
また、現在でも建築CAD検定としてCADで図面をトレースする検定も数多くあります。CADで「トレース」ができる=CADが問題なく使いこなせるということからCADオペレーター等の求人にはこのようなCAD検定等の検定取得者を必要としている企業も多くあります。現在でも「トレース」とは、その人の技術等を見るために重要視されているといえるでしょう。